「旅行が嫌いです」という人は、日本においては少数派ではないだろうか。

たしかに、「遠くに行くのはちょっと面倒くさい」「交通費だけで結構な金額になってしまう」と遠方への旅行をちゅうちょしてしまう人がいるのは事実だろう。しかし、旅行そのものが苦手だという人はあまり聞かない。

その裏付けとして、観光庁が行っている「旅行・観光消費動向調査」を見てみると、2016年7〜9月期に国民のおよそ3人に1人が観光目的の国内宿泊旅行に行っていることがわかる。「日本人は旅行好き」と言っても決して過言ではないだろう。

今では日本中に様々な交通手段が整備されており、誰でも気軽に遠方まで旅行に行ける時代となった。江戸時代にはおよそ15日かけて江戸から徒歩で「お伊勢参り」に行っていたというから、その点では私たちの時代はとても恵まれているとも言える。

ところが、旅行は「観光地を楽しむもの」だと考える人が多いのも事実だ。もちろん、それは間違いではない。しかし私は旅行に伴う「移動」も旅の重要な要素だと考えている。その説明の前に、旅の大きな3つの魅力にについて考えてみる。

3つの旅の魅力

旅の魅力は「3度味わえる」ところにあると、私は考えている。

旅行に行こうと決めた瞬間から、心はわくわくするものだ。旅行用のグッズをそろえたり、ガイドブックを買ってどういう行程で観光地を回ろうかと考えるだけで楽しいものである。

つまり、旅行は当日だけではなく、その前の期間にも高揚感を与えてくれるものなのだ。料理で例えれば、「前菜」にあたる。

当日はもちろん、旅の「メインディッシュ」だ。普段とは違う景色、言葉、食べ物、これら全てが非日常感を与えてくれるだろう。日常を忘れ、素敵な映画の中に自分がいるかのような感覚を与えてくれる。

旅が終わってもその「記憶」は残り続ける。たとえカメラに収めていなくても、自身が味わった空気感や雰囲気は失われることはない。そして人はまた、次の旅のために頑張れるのだ。これはいわば「デザート」と言えるかもしれない。

移動も楽しもう

これらは、一般的に言われる旅の楽しみ方である。

私はもう少し踏み込んで旅行に伴う「移動」も旅の重要な要素であり、魅力の一つだと主張したい。

もし、ドラえもんの「どこでもドア」が実在し旅行地にすぐに行けてしまったら、旅の醍醐味の3割は失われてしまうのではないかとすら感じている。

普段は同じ時間の同じ電車に乗り、通勤をしているという人も多いだろう。旅の場合には、いつもと違う交通機関に乗ることが多いはずだ。

新幹線や夜行列車、バスや飛行機など移動手段は様々だが、その「移動」も非日常であり、旅の醍醐味なのだ。普段乗らない乗り物に乗ること、そしてその道中の景色、その全てが旅行の一部分なのである。

道中で旅の仲間と語り合えば、いつもとは違う話ができるかもしれない。これからの旅の行程について、相談するのもいいだろう。その時間があってこそ、メインディッシュをさらに美味しくいただけるのだ。

帰り道の移動もまた趣がある。旅が終わる寂しさと、楽しかった思い出の回想。そして、自分の住む街に帰ってきた時に味わう「景色が少し違って見える」という、あのなんとも言えない現象。

これらが、旅の「移動」に伴う魅力である。

最後に

現代は「成熟社会」とも表現される。

人々が物質的な豊かさだけではなく、心の豊かさを重視するようになった。リタイア世代、セミリタイア世代の増加が、「趣味や余暇に重点を置く」という部分を後押ししているのだろう。

これは言い換えれば、自身の「体験」にお金を使うということに重きが置かれてきているとも言える。

そのような時代においては、「旅をする」ということは、今後ますます注目を集めていくだろう。その体験には、もちろん「移動」が含まれているのだ。

旅は、「限られた時間を楽しむこと」とも言い換えることができる。その時間の流れは、普段とは全く違うものである。目的地に主眼を置くのはもちろん結構だが、その目的地に向かうまでの移動の時間、そして帰りの移動をもぜひ楽しんでみてもらいたい。